僕の瞳にはもう君しか映らない 05 



 





 ヅラの中に誰がいるんだか、知るまで落ち着かねえけど……決めたらテコでも動かない奴だから。
 嘘吐ける二枚目の舌は先天的にも後天的にも生えてこなかったようだが、隠そうとした事は口が裂けたって言わねえ奴だから。
 隠そうと腹決めたら一番近くで見てた俺だって気付けねえくらい、上手に隠蔽するから。

 無理矢理吐かせようとしても、努力はどうせ無駄になるんだろう。
 あんまり頑張るっての好きじゃねえ。どうせ俺にそうゆうの向いてない。

 だったら始っから墓まで持ってく覚悟で隠し通せよ。



 知らなきゃよかった。どうせ、教えてくれるつもりないなら、知らないままが良かった。

 誰が居るの?
 そん中に。
 俺以外に。



 コイツ男も範疇だから、守備範囲広すぎて誰だかさっぱりわかんねえ。
 まあ坂本じゃなくて良かったわ。アイツじゃある意味敵わねえ。敵おうとも思わねえし、張り合いたくもねえけど。





 結局、何だってんだよ。何が言いたくてその事実を俺に伝えた?

 ムカついたから、手を伸ばしてヅラの髪を引っ張った。
 ちゃんと掴まねえとヅラの髪はさらりと逃げるから、しっかり掴んで引っ張った。

「痛っ!」
「痛くしてんだよ馬ァ鹿」
「気に入らないからって、ガキか貴様は!」

 気に入らないって不機嫌になってることは理解してくれてて有難う。

「はいはいすんませんね」


 なんか……不公平だよな、これ。



 だって……今ので俺の気持ち、確信された、よな。
 そりゃ長年の付き合いだ、薄々勘付かれてたと思うけど、今ので完全にバレたよな。

 嫉妬して、冷や汗流して、心臓を早く動かしてるの、絶対に見られた。



 俺が動かないのいいことに俺のこと放置しやがって好き勝手に色々遊び放題で。


 俺だって、そろそろ限界近いんですけど。
 いい加減、毎回顔も見たこと無い奴に嫉妬すんの疲れました。毎回俺の醜い感情押さえつけんの面倒臭い。それなのにお前だけは清々した顔しやがって。


 それにしたって、ヅラもヅラで片想いかよ。ざまあみろ。
 だったら俺の積年の怨念少しは理解してんだろ?



 理解してるなら、気をつけろよ? アンタの大事な幼馴染みは、そろそろグレますよ。



 もう何でもないふりとかしたくねえ。
 全開で拗ねてるから、さっさと慰めろよ。そんくらい理解してんだろ?

 そんくらい出来んだろ?





「昔……」
「あ?」

「お前や高杉によく引っ張られたな」


 高杉の名前出しやがったから、ムカついてまた引っ張ってみた。

 ヅラの髪握る俺の手を、ヅラが掴んだ……のに、ちょっと心拍数上げそうになったけど……ああ、髪から俺の手を引き剥がしてんのね。
 だからますます、髪を強く握ってやった。その俺の指を一本一本、ヅラが剥がしてる。
 絡んでくる指が気持ち良くて、何がなんでも放すもんかって、少し躍起になる。



「……昔よく引っ張って遊んだな、そいやあ」

 俺もだし、高杉も。
 高い位置で揺れる馬の尻尾捕まえると返ってくるお前の反応が見たかったんだ。


「後ろで結わいていたからか? 掴みやすいかもしれんが……正直、勘弁してもらいたかったな」

「あー、たぶん握りやすかったんじゃねえ?」

 確かに握りやすかったけどさ。握って引っ張って、ボサボサになった髪を整えるためにほどいたの見たかっからって時もあった。
 今でもこんな見た目だし、ガキの頃は、ヅラの見た目はただの美少女だったから。いつも結んでたから、おろした形が新鮮だった。下ろした髪型も似合ってた、とか言えるはずもないけど。


 お前とこんな腐れ縁になるなんて思わなかったガキの頃は、ただお前の顔と髪だけは無条件に好きだった。性格は昔からこんなんで、どこの委員長なんだか、正義感振りかざして生意気で気に入らなくて、気に入らないからつっかかって。しょっちゅう喧嘩した。

 戦乱の時代、俺ん中ほとんどお前でいっぱいだった時もあった。色んなもん抱えてみたけど、お前の存在がでかすぎた。そんな時もあった。



 今は、なんか……隣にお前が居りゃいいって思ってる。

 ただそんだけでいい。


 俺とおんなじ距離、そんな比重でそばに居てくれりゃいいって思ってる。

 何だかんだ言って、俺だって色んな経歴経て、結局お前が隣に居りゃいいって思うようになった。



 だってお前が一番俺に似合うから。






「昔……」

「昔?」








「先生が、昔、俺に……銀時を宜しくと仰った」








20120828