僕は君に会うために生まれてきたんだ 04



 





「銀時、共に攘夷を目指さないか?」





 ……馬鹿の一つ覚えって奴だろうか。

 こんにちわ、幼馴染みの銀時君、お久しぶりです、ご機嫌如何ですか? てな挨拶の下りを一切無視して、久しぶりに会った元恋人に開口一番それですか、毎回。


「……嫌です」

 俺だって毎回断る以外の返事を返した事もねえし、それ以外の気の効いたバリエーションも特に思いつかねえ。
 それ以外返事のしようもない。


 お前だって俺がそれ以外の返事しないことくらいいい加減覚えろって。勉強やら無駄な知識や攘夷に必要な情報なんかはいくらでも吸収する癖に、なんで自分に都合の悪いことはすぐに忘れる都合がいい脳ミソしてんだよ。

 他になんかねえのかよ?
 せっかく久しぶりに顔見せに来たってのに、本当に他にねえのか?



「そう言えば銀時、猪熊茂男は知っているか? 攘夷志士の中でも屈指の過激派の奴だが」
「……知らね」

 そりゃ、家計が火の車だったりすると公にできない、すれすれのお仕事とかも割りに合えば引き受けたりするけどさ。だから、まあその名前くらい聞いたことぐらいあるけどさ。



「そいつがこの前俺に連絡をくれて、先日会ってきたのだが」
「あっそ。おめでと」
「そいつが……」


 何だか、色々と活動内容について熱く語られたって、俺は知らねえ。
 誰か知らねえ男と会って、そいつの事誉められたって、俺にどうしろってんだよ!
 もう俺は関係無いって! 一般人だから。

 お願いだから巻き込まないで下さい。
 危ないことも法律違反ももう嫌だからな。
 まっとうな納税者を巻き込むなっつの。
 俺はあんま写真写り良くねえから、あ、この顔だ! すぐに110とかのビラを作られたくねえんだよ。



「聞いて居るのか?」

「一切聞いてねえよ! 勝手に喋ってろ!」


 ったく。

 何なんだか、コイツの頭。カチ割って見るまでもなく攘夷で占められてんだろうな、どうせ。

 他に何にも考える余裕なんか無いんだろうな、どうせ。



「お前、攘夷以外の事考えたりすんのか?」



 頭ん中全部それで埋めやがって! 目の前に俺が居んのに……きっとそれも目に入ってねえのか?
 目の前に一点集中しかできなくて、しかも完遂しないと次に進めないだなんてな。本当に不器用な奴。
 途中で投げ出すとかも処世術の一貫だってのは、一ミリも考えねえんだろうな。処世術だなんて器用さがあったら、攘夷志士まとめて盟主だなんて崇められて無かったかも知れないけど。


 攘夷だけで頭ん中満たしやがって……。




 そんなんじゃ………俺の入り込む余地ありそうもねえよな、やっぱり。



 こういう不器用だけど真っ直ぐなところとかに惚れてんだろうな、結局。とか自覚ある自分がムカつく。
 自分が進む前以外にも、横に居る俺とか少しぐらい見る余裕持てって欲しいです。



 だからって、攘夷やめて俺だけ見てろとか言いたいけど、言った所で無理だって知ってるし。俺が一番それを言っちゃいけねえ。

 だってお前から攘夷取っ払ったらなんか残るのか? お前がお前らしく在るのを、何があっても俺だけは奪う権利がねえ。








 そんなこと思って、だから鬱陶しいヅラの活動に捧げる熱い闘志の演説を中断させた。

「攘夷以外で何かねえの?」

「……なんだ、それは?」

「いや、攘夷やってなかったら、お前なにやってんだろって。どうせロクに仕事もできそうにねえし」
 そうでもねえかな? 自分で決めた事以外出来ないって不器用な奴だけど、ガキの頃から勉強でも剣術でもヅラが何でも一番だった。昔から物覚えが早くて、誰よりもうまくできた。たぶん何やらしても人よりもできるんだろうから、こんなご時世じゃなくても上手に生きていけるんだろうけど……いや、こんな時代じゃない方が立派な人間やってたんじゃねえの? 少なくとも犯罪者と呼ばれる存在じゃなかったはずだ。

 でも、本当にヅラが攘夷やってなかったら……それはどんなヅラなんだろう。



「残念ながら銀時、そんな俺は存在していない」






 ……ああ、どうせそうだろうよ。

 どうせ、てめえならそうだろうよ。


 なんか腹立つ。具体的に何が腹立つかって言いたくねえけど、ムカつく。




 だって俺の立場は?
 とか、思う……わけで。だから、絶対に言いたくねえけど。



 ヅラの人生で、多分俺が唯一の恋人って呼べる存在だったはずなんだけど……今後は知らねえけど、今までの人生で多分俺だけが、コイツの範疇に入る事が出来た唯一の存在だって、きっと間違いねえ。
 俺が知ってる限り、俺以外の誰かを隣に置いた事は無い。離れていた時に誰かと何かがあったかもしれないけど、今は解らない。多分、コイツの性格上、誰かを懐に入れる事なんてできるわけがねえ。



 俺は俺で、あの頃世界が全部埋まるくらいお前が良かった。


 今だって過去の事に出来るほど俺もあっさりした性格じゃない。





「じゃあさ、お前の理想の世の中になって攘夷が必要無くなったら?」

 その日、目指して今を全力投球してんだろうけど。攘夷のその後とか考えたりすんの? ヅラの思い描く理想の世界が実現して、その中で生きてるお前って自分で想像したことある?

 お前がお前の望む世界を手に入れたら、そしたらお前、どうすんの?
 何すんの?




「……考えてなかったな」


 さいですか。さすがはお前だよ。

 そんな余裕も無かったんだ?









「だが……その時は、お前の為に生きて行くのも悪くない」




「……………」



 なんだ、バレてた?


 鈍感なんてレベル通り越してるから、俺の視線やら心中やら察するなんて高等技術できねえと思ってた。






「今は、まだ応えられないが」

「……わかってんよ」


 不器用な奴だから。一つの事しか考えらんない奴だから。






「俺も気が長い方じゃねえから、さっさとしろよ。いい加減待ち飽きた」



 って言ってみたけど、もう人生の半分以上はお前の事好きだったし。
 俺ってけっこう気が長い方だと思う。辛抱強いってか。
 今は今しかなくて、今はヅラは前しか見らんないから、せめてずっと隣に居て視界の端でちらちらと存在を主張させとかねえと。


 でも、やっぱりそろそろ待ち飽きた。






「そうだな。早く………」















20120531
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