「高杉、ヅラは?」
結局、這いずって障子開けた場所で行き倒れてた俺は、通りかかった高杉の足首を掴んだ。
わざわざ俺を跨いで通り過ぎようとした高杉から容赦ない視線が降り注いでくるけど、んな顔しなくたっていいじゃねえか。
高杉は一昨日、見舞いに来た。そんで枕元に立って座りもしなかった。見下ろしたままザマぁねえって言ってどっか行った……って何だよそれ。
自分がチビだからってこんな時に仕返ししてるつもりか何なのか知らねえけど、別に悔しくねえって。
一昨日、同じ質問をした時は、本格的に忌々しそうに、顔をしかめただけで何も言わずにどっか行った。一昨日は追いかけるの辛かったけど、今ならだいぶ回復したから、追い詰めてでも訊いてやろうって思った。
だから、離さねえよって意味で、高杉の足首をがっちり握ると、吐き捨てるような溜め息が落ちてきた。
「馬鹿か、お前は」
「バカじゃない、桂だ!」
「馬鹿でいいから! これから馬鹿小太郎に改名しろっ! いっそ小太郎もやめて馬鹿だけにしろ!」
目眩がして世界が揺れたのは、怪我のせいじゃなくて、勿論全部ヅラのせい。
背中にでかい傷負って、熱出して、寝込んでやがった……とか。
そんなでかい傷作ってたくせに、あの日、俺が起きるまで隣に居たって、何の冗談だよ。
高杉の足首離すのを条件に、肩を借りて連れてきてもらったら、ヅラはいつも青白い顔を一層青くさせて、死人みたいな顔色で布団の中で大人しくしてた。
俺が怪我の状態を確認したわけじゃねえけど、けっこう酷い傷だったみたいだ。骨には傷ついてないようだけど、でかい怪我だったから出血が酷かったらしい。
あの時、飄々としやがって……こっちも意識が朦朧としてたおかげで気付けなかったことが、情けないやら悔しいやらで、結局ヅラが馬鹿だって結論になる。
「別に……手当てはしてあったし……死ぬほどの怪我でもなかったし」
「いつ怪我したんだよ」
「銀時が戦線を離れてから、しばらくして……」
「んで、何で大人しく寝てなかった?」
詰問すると、ヅラは口を尖らせた。
「その顔可愛くねえからっ!」
可愛くねえどころの騒ぎじゃなくて、俺の腹の傷が開いてでもいいから殴りたくなるような顔しやがってんじゃねえ。
「それに、お前に話があった」
「だからって……」
「約束を破るわけにはいかないだろう?」
いや、そこはまず自分の体調優先しとけよ。お前が居なくなって困るの、どんだけいると思ってんだ。
俺がもうこうやって何とか動けるのに、お前がまだ寝てるって、お前の方がよっぽど酷かったんだろ?
ただでさえ中身入ってなさそうな薄い身体してんだ。どんだけ血を流したんだよ? まだ顔色が青い。
コイツは昔から……。
石頭で融通効かなくて頑固でばか正直で素直じゃなくて……決めた事は絶対実行しないと死ぬって無駄な自分ルールでも作ってんじゃねえのかって思うほど、決めた事はやり通す。
だから俺に、夜、話をしようって、ヅラがそう決めたから、俺が起きるまで倒れる事も出来なかったんだろう。
あの時、どんだけ痛かった?
俺の手を握ってたお前がどんだけやせ我慢してたか考えると辛い。
俺がそうさせちまったって自己嫌悪が押し寄せるけどそれと一緒に……。
お前にとっての俺の価値を再確認して、情けねえやら嬉しいやら。
俺って、相当大事にしてもらってるわけだろ?
だって、あの時の話、やっぱり夢じゃなかったんだ?
やっぱり俺が思ってた事、ヅラが言ったんだ?
先に言いやがって、俺だってそう思ってたから。俺のが先に思ってたはずだって。
「俺が居ないからって、斬られてんじゃねえよ」
俺に無断で俺の半分に怪我させてんじゃねえよ。
「一人でも……銀時の穴くらい埋めてやれると思ったんだがな」
「………カッコ悪」
「貴様に言われたくない」
俺が先に斬られたから、俺の方がカッコ悪いなんて事は百も承知してるって。俺のがカッコ悪いけど、でも実際ヅラもカッコ悪いって。
斬られやがって。
「情けねえの」
情けない奴。
マジで情けねえ。
だって、お前、俺がいなきゃ駄目だろ?
俺がちゃんとお前の背中守って支えてやらねえと、駄目だって事だろ?
今は戦いの中だけど、そうじゃなくても、こうやってヅラと俺が二つで一つって、対になっててさ、どっちか欠けたら共倒れちまうような関係で。お前は俺が居ないとこうやって怪我するし、俺もヅラが居ないと息すんのも忘れそうだし。
でも二人で居りゃ、誰よりも強く在れる。俺達はそうやって出来てる。俺達は俺とヅラで出来てるんじゃなくて、『俺達』って存在だ。
つまり、お前には俺って事だろ?
「何だ? ニヤニヤと、気持ち悪い」
「別にぃ」
俺達は二人で在る為に生まれてきて、そうやって生きてる事実が、急に実感を伴った。
了
20120530
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