深夜だった。
俺が一日の疲れを癒すため、穏やかな安眠を摂取していたら、突如布団の中に異物が混入した。
「銀時、かくまってくれ!」
勿論、飛び起きた。起きてまず俺にできた事は、溜息……と、脱力。
いきなり寝てたら布団の中に襲来したこいつは一体何なの?
「てめ、今何時だと思ってんだ!」
突然お邪魔しますもなしに、布団の中に飛び込むって、同じ教育を受けてたはずなのに、俺と違った常識身に着けてんじゃねえよ!
俺の温もりでほかほかになった布団の中に突然潜り込んできやがって……しかも俺の布団奪うんじゃねえ!
布団をひっぺがそうとしたのに、布団押さえ込んで、顔も見せようとしないって、どんだけだ、お前っ!
まず、客としての態度を逸脱してねえか? そもそも、お前のどこかに常識あんのか!?
「てめ、どうやって入った!」
まず、そっから。
俺は鍵閉めて寝たよな?
うん、確認した。ちゃんと確認した。この町は治安が良いわけじゃねえから、大して盗られるもんねえけど、泥棒とか入ったらびっくりして怖いから、ちゃんと確認した。
今日なんかは、いつも押し入れで寝てる用心棒の神楽ちゃんも、不良娘に育ったせいか外泊だし……お妙んとこだけど。
鍵は、ちゃんとかけたの覚えてる。
「頑張って入った」
「じゃねえ! どっから不法侵入したか訊いてんだよっ!」
「そこ」
そこって………てか窓は玄関じゃありません。
今度はどうやって入ったのか聞きたくなった。そこの窓に入れるような足場なんかねえ。そうか頑張って入ったのか。やっぱり聞きたくねえな。どんな身体能力してんだ。屋根からか?
昔は常識と正義感が服着て歩いてるような奴だったのに、お前、いつからそんな常識なくなってたっけ? 確かに窓は鍵してなかったけどさ!
「何だってんだよ!」
そもそも俺、寝てたんだけど!
すげ、気持ちよく、俗世のシガラミを忘れて安眠を手に入れてたのに!
せっかくいい夢見てたのに!
何、邪魔して下さってんだよ!
「追われている、頼むから大人しく俺を匿え」
そう、言われりゃ……爆睡してたから気付かなかったけど、耳を澄まさなくても、外が騒がしい。深夜とは思えない喧騒が外にある。ちかちか赤いランプが点滅してる……とか。治安悪いのも大概にして欲しい。
別に、いいけど。捕まったりしたら、こっちも夢見悪そうだから、多少はお前の事隠してやってもいいけど……。
けど、匿えじゃなくて、匿って下さいって頭下げるもんだろうが普通はっ!
頼み方も知らねえのかよ!
外は、夜中なのに騒がしい。
これはまた、もはや江戸の風物詩となりつつあるお巡りさんとの追いかけっこで、この騒ぎなんだろうな、どうせ。原因はお前か、どうせ。
俺に迷惑かけんなよ。俺じゃなくても、こんな夜中に迷惑かけんなよ!
うっさい警察も警察だけど、見つかるお前もお前だって!
「そんなら布団じゃなくて、押し入れ入っとけ。今日なら神楽居ねえし」
「そんな! いくらリーダーと言えど、女子の寝床に無断で入る事などできん!」
一応、うちのゴジラは女子扱いされてるらしいよ。良かったね。
「男だったら他人の寝床に入ってもいいのかよっ!」
「銀時とは、身も心も一つになった事もあるし、他人とは思えんから、大丈夫だ」
「…………へえ」
……ああ……あったねえ、そんな事。
にしたって、突然、なんて事言いやがるんだか。
こっち、忘れてたのに……。
忘れるような事でもねえが、若気の至りっつうのか、当時、女っ気が皆無だったから……きっと、そんな理由だ。と思いたい。
昔は、顔と髪とだけしか取り柄が無いような、うっかり見た目に騙されそうになるこの馬鹿と、うっかり恋人だった……時も、あった。
戦いばっかの毎日で、一番近い場所に居たヅラに、うっかりよろめいただけだって。
俺の欲求不満が募って、ヅラがなんか可愛く見えちゃっただけだから!
違うから! 絶対、違うに違いない。
……と、今は思っている。思いたい。
「……昔の事を持ち出すんじゃねえ」
「じゃあ、幼い頃から共に育って来たからでいい」
いや、理由が気に入らないって言ってるわけじゃなくて、そんな今更な話蒸し返されたってって意味よりも前に、今は俺は就寝中だから、突然襲来されたって困るんですがって言いたい事に気付いてお願い。
いや、ヅラがさらりと地雷踏みやがるから、眠気もぶっ飛んだけど。
もともと、布団に入って来た時点で眠気どころじゃねえが。
外が、真夜中だってのに、喧騒に包まれてた。パトカーのサイレンと男の怒声が聞こえる。真選組の奴ら……そりゃ迷惑行為だって。仕事熱心なのは見上げた根性だけど、時間考えて仕事しろよ。
窓の下をざわめきが走りすぎる。
その音を聞いたヅラは布団を被って、身を縮めて俺に身をすり寄せた……。
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20111224
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