ヅラが、頼もうっ! って道場破りみたいなでかい声張り上げて玄関開けたのが、今。
「遅い!!」
今日、十月十日。
そろそろ十一日。そんな時間って……かなり減点なんだけど……。
俺も今から新八んちにケーキ食いに行かなきゃなんねえってのに……神楽も新八も先に行ってるから、あいつらだって腹減ってんだからな。晩飯まだ食ってねえんだよ! てめえはどんだけ俺を待たせる気だ? 待ってるだけじゃなくて空腹も加算されて俺のイライラはかなりピーク。
腹減ってんのに……あいつらだって……いや、あいつらの事だから俺を待たずに俺抜きで俺のお誕生会とかしてすでに盛り上がってる予感がする……ケーキだけでも残しといてお願いしますって、誰に祈ればいいんでしょうか。
なんでこんなに待たなきゃなんないの? 減点十点。
だいたい、ヅラがこんなに遅く来るから……普通に夕飯食い終わって風呂入ってる時間とかなんですが……。
「遅いとは何だ? まさか俺を待っていたわけでは無いだろう?」
「……っっったり前だろ!」
いや、別に待ってねえよ! 待ってたわけじゃねえよ! 約束とかしてねえし、ヅラなんか待ってたってわけじゃねえけどな!
別に今日が俺の誕生日だからって約束なんてしてねえし、ヅラがくるっても言ってたわけじゃねえ。当然待ってたりなんてしなかったですから。
んでも、俺のこと大好きなヅラがどーしても俺のお誕生日お祝いしたいかもしんないから、だったら、どーしてもって言うなら祝われてやらなくもねえし。だから、待ってたわけじゃねえって。ヅラのことだからやっぱりどーしても今日俺に何か言いたいことあるんじゃないかって思ってたわけで、俺も待ってたわけじゃねえ。だから、
「待ってたんじゃなくて、待ってあげてたんだって」
そこんとこちゃんと解ってないとか、減点十点。
「……そうか」
今笑いやがったから、更に十点引いてやる。
「さっさと上がれよ」
「いや、この後、俺も予定があってな」
……何ソレ。
とか……地味にムカついた。
いや、何だかんだで、西からの過激派の浪士さん達が最近やたらと目について、今も遠くの方でパトカーのサイレンの音とか聞こえてきちゃってるから、ヅラが表で活躍しちゃってんだか、裏で暗躍してんだかしらねえが、忙しそうなのは町の気配で何となく解るけどさ。
今日、何月何日だか知ってる?
今日が十月十日で、十月十日って俺の誕生日だって知ってるよな? ガキの頃からの常識だろ?
それなのに俺の為に時間空けとかねえとか……減点対象の事態だな。
「てか、『も』って何?」
俺も忙しいって言ったけど、「も」ってなに?
「夕方ごろリーダーと新八君に会った」
……間の悪い奴。また減点してやる……。
あいつらの事だから浮かれて色々喋ったことは目に見えている。どうせ今日は俺のお誕生日会でケーキだってはしゃいでたんだろう。滅多にないご馳走とかでテンション上げて、訊かれてもないのにヅラに喋ってる姿は容易に想像できる。
「じゃあ、茶ぐらい飲んでけば?」
「いや、それは駄目だろ。リーダーが待っている」
いや、行くけどさ。そっちはメインだけどさ。
解ってんだったらなんで早く来ないかな……。
「とりあえず、これを渡そうと思ってな」
そういって、ヅラは俺に小さな包みを渡した。
何これ?
誕生日プレゼントとか、そういう気の利いたことができるヤツだっけ?
おめでとうとか言われた事はあるけど、ちょっと手土産が豪華になったりはしたけど、具体的な形に残る物質で祝いの気持ちを伝えられたことなんてなかったから……。
やべ……ちょっと、嬉しい。
小さかったけど、んで包みはやっぱりどっかの店で買ってきたようだったけど……ヅラが俺のために何か考えて、俺のために何かを買ってくれたってことは、値段じゃなくて、それが嬉しい。
いや、期待なんてしてないけどさ、中身に。どうせヅラのセンスだから、期待して痛い目見るのは解ってるけど……でもやっぱり嬉しくて……そんで
開けてみて……やっぱ、疲れた。どっと。
「もう二十点。いや十点だな。これ、参加賞レベルだから!」
「何っ!? 限定品のステファンストラップだぞ? 満点じゃないのか?」
「要らねえよっ!」
何考えてんだこいつ。
これ商品化した奴出てこい! こんな薄気味悪い何考えてんのか解んねえ生物キャラクターにしてグッズにしてんじゃねえよ! 一部のマニアックなファンをカモってんじゃねえよ!
「要らないのか? では、返せ」
「返すか、馬鹿」
遅れてきたうえに、人に上げたブレゼント横取りしようとかどういう根性だ? そんな礼儀知らずに育てた覚えなんてないんだけど。
返せって言われて何で返さなきゃなんないの? ネットで売ったって二束三文にしかならねえだろうけど、ヅラに返すより俺がごみ箱に捨てた方がよっぽど有意義だと思う。
……捨てないけどさ。きっと、何十年後も持ってたりしそうだけど……んで、引き出しの奥にしまっといて、ずっと経ってから見て、この忌々しいお誕生日プレゼントの苦い思い出を思い出したりすんのに使うんだから返すわけねえって。
「だが、困ったな。それが要らないとなると、今、他には何も持っていない」
別に……もういいよ。
パトカーの音が近くなってきた。
その音にヅラが耳傾けてんのわかってる。
もういいって。どうせ、忙しいんだろ?
「では、な」
だいたい、この件が片付くの、早くて一週間てとこかな。
「やっぱり零点。追試」
「は?」
「一週間待ってやるから、やり直し」
「一週間か……厳しいな」
「それ以上待てねえからな」
「解った……なんとかしよう」
「あとショートケーキ、ホールだと点数加算してやる」
「……注文が多い」
「あと……」
「まだ何かあるのか?」
「いや」
「じゃあな」
怪我すんじゃねえぞ。
ヅラは声に出さなかった唇の動きを聞き取ったらしい。
少しだけ笑ったから。
了
20111010
独り言サルベージ111115
1100→2300
辰馬お誕生日おめでとうっ!!!
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