俺は、いつから目を閉じてしまっていたのだろう。
いつから、銀時に負けてしまっていたのだろうか……。
「はい、お前の負け」
「………」
いつから……負けていた。
銀時は、相変わらず、片手で俺の胸を触り続ける。指先ではじくようにされたり、指の腹で押しつぶすように、触れてくる。
「あ……ぁ、ぁん」
「で、俺にどうして欲しい?」
銀時の微笑みに……身体中に、熱が広がった。苦しい、と思う。
さっき一度出したばかりなのに、俺のは再び熱を持ち、服を押し上げていた。
もう……。
「……放せ」
「いいの、放しちゃって?」
きゅと、両胸を摘まれる。
「ひぅっ……ん…あっぁ、ぁ」
痛みよりも、激しい快楽が俺を襲う。
放せ、と、言いたかったはずなのに、口から出るのは言葉ではなく、みっともない嬌声でしかない。
銀時の指先が、少し力を入れるだけで、俺の身体が言う事を聞かなくなる……身体が、熱い。熱がこもってしまい、身体中で暴れているような気がした。早くこの熱を開放したい。どうすればいいか、は、解っているが、それを俺が口に出すことは憚られた。
「放しちゃってもいいなら放すけど、どうする?」
どうするじゃない! 俺は負けて、放せと言ったんだ。勝った方が言う事を何でも聞くって言っただろうが! 早く放せ! 早くそう言わないと、銀時が調子に乗ってしまう。俺は昼間から一日に二度もこんな事をするのは嫌だ。
「あっ、あ、あぁっ…あ」
口が言葉を忘れてしまったようだ。何でも言う事を聞くといった銀時は、まず俺に発言できないように攻撃を仕掛けてきているのか、一向に手を放そうとしない。重点的に攻められている胸は、痛いぐらいに敏感になっているのに、指先で捏ねるように、そこばかりを触られる。
なんで、俺は、こんなに……。
先ほども弄られた場所だ。皮膚の薄い場所なんだから、感じないというわけではないが、女性の胸とは違う。銀時が舌触りを楽しんでいる程度に思っていた。
今、なんで……こんなに。先ほど飲まされた薬のせいだろうが……それにしても。
「は、ぁっ……ぅ…んっ」
もう、辛い。身体が、熱い。熱くて辛い。
せめて意思だけでも伝えようと、銀時の両腕を掴んで止めようと試みるが、結局、力の抜けきった手では、大した抑制にもならない。
「やっ……も、あぁっ……ん、んんっ!」
重心が回る。
耐え切れなくなって、つい銀時に倒れ込んでしまった。
「はい、いらっしゃい」
銀時に抱きとめられ、ようやく俺の胸は解放されたが……今度は全身で捕まってしまった。いや、ただ抱き込まれただけだが……だが、今の状態、もしかして、俺から銀時の胸に飛び込んだかのようではなかったか?
いや、もちろん、わざとじゃない。
背に腕が回される。
銀時の腕に、優しく抱き込まれる。背骨が折れてしまいそうなほどではないが、銀時の腕から逃れようとして身体を動かせない程度の力で、それでも何故か優しいと感じる抱擁だった。
「ヅラ……」
……ヅラじゃない、桂だ。
毎回の苦情を言いたかったが、未だのどが張り付いたかのように、口は喋るためではなく、呼吸のためにしか使えない状況だったので、視線だけででも伝えようと思った。
思って、銀時を見た。
銀時が、笑っていた。
いつも、見ている顔なのに……幼い頃から隣にあった、良く見知った顔なのに……。
「……ぁ…」
身体の、芯が、再び熱を上げる。もう、これ以上体温が上がったら、俺が沸騰してしまう。
「放しちゃっていいの?」
「………駄目」
「苦しい?」
「……苦、しい……」
苦しい。
身体中で熱が暴れているようだ。やはりもう俺は沸騰してしまっているのかもしれない。
「もっとしてほしい?」
「……解っているなら、さっさとしろっ!」
もう、この身体の熱をどうにかしてくれるなら、どうなってもいい。早く……もう、爆発しそうなくらいに立ち上がってしまっていて、俺は早く解放されたいのに、銀時は一向に俺のには触れようとしなかった。それでも相変わらず胸には手を伸ばしてくる。
「負けたくせに、その言い方かよ」
「……」
もともと負けた方の言う事を聞くという約束だったではないか。
「んじゃ、御随意に致しましょうかね」
「……あっ……銀時」
銀時が、俺に、触れる。
銀時の指をもっと感じたくて、自分から動く。
服を脱ぎ捨て、銀時が俺に入れやすいように、獣のように四つん這いになる。
中に、銀時を感じる。
それから、狂ったように銀時を求めた。
俺は、ずいぶんと凶悪な効果を持つ薬を飲まされてしまったものだ。
俺の身体が落ち着いた時には、すっかりと日が暮れてしまっていた。
昼時に銀時が来てから、何時間だ?
結局、今日は何度やったんだ? もう一か月分ぐらいは十分ヤり溜めたんじゃないだろうか……疲れた。身体中、汗と精液と涙と涎で、もう……とにかく風呂だ、風呂……が、もう少ししたら。今はまだ身体が動かない。一回の射精につき、100メートルを全力疾走分の体力を使うと聞いたことがあるが……いや、俺は何百メートル走れたのか考えないようにしよう。
銀時は相変わらず素っ裸で畳の上をごろごろしている。だいぶ汗をかいてしまったので、一度濡れ拭きしたい。
俺も、素っ裸で、畳の上で……起き上がれない。なんかもう……疲れた。このまま寝てしまいたいが、起きた時の不快感はきっと想像を絶するだろう。
「………何だ、銀時」
銀時が寝っころがったまま、俺を見てニヤニヤしていたのが、何やら癪に障った……こいつは……人をあんな目にあわせておいて……。
「いや、お前ってけっこう、俺のこと好きなのな」
「は?」
突然……何を言い出すんだ、この男は? どこをどうやったらその結論が出るのか謎だ。
「いや、なかなかノリノリだったじゃん」
「馬鹿か? 浅ましい真似をしおって」
ノリノリもクソもあるか! 貴様が俺に無理矢理飲ませた薬のせいで、散々な目にあった。もう、次をしたら貴様のをぶった切ってやるとの誓いは、敢えて伝えるべきだろうか。
本当に、なんて薬を飲まされてしまったのだろう。銀時だと思って油断していたが、これからは気を付けるようにしないと。
「ヅラ、先風呂行って来いよ」
当たり前だ。
そう思って、まだろくに俺の言う事を聞かない関節を叱咤しつつ、なんとか身体を持ち上げる。
髪を掻き上げると、手にべとりとした感触……銀時がすっ飛ばしたものが、髪にもついていたようだ。早く洗いたい。
本当に、さっさと風呂に行こう、そう思ったが……それよりも先にしておかねばならないことがある。
「銀時、さっきの薬はどれだ?」
またあのようなものを飲ませられたら堪ったもんじゃない。俺も体力はある方だと自負があるが、銀時の性欲に付き合えるほどに馬のような精力は持っていない。
さっさと処分してしまわないと。
「どうすんの?」
「捨てるに決まっているだろう?」
「勿体ねえ。まだ残ってんのに」
「使わせてなるものか。どこだ」
「卓袱台の上」
………やけに、素直じゃないか?
銀時のことだ、あれしかないと嘘ぐらいつくと思ったが。それでも、その真偽を確かめる為に、刀ぐらいは抜くつもりだったが……。
卓袱台の上に、四角い箱があった。が、中は、確かに、カプセルが入っている。俺が飲まされたものは、確かにこんな形をしていたように思う。
まさか……これ、か?
「にしても、効き目抜群だったな」
「貴様……」
「ん? 何怖い顔しちゃって。俺何か悪いことしましたか? 嘘でも吐きましたか?」
「これは……」
「それが?」
………ぐしゃり、と、俺の手の中で箱が潰れる音がした。
今俺の中に湧き上がっているのは、怒りだろうか、自己嫌悪だろうか、羞恥だろうか………いやきっと、殺意だ。
「もういい、銀時……貴様の首を絞めさせろ!」
俺の手の中で潰れたビタミン剤を、銀時に叩きつけた。
了
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