桂の、赤い唇が……、すと、持ち上がった。
ぞくり、と、背筋に熱が走る。
唇を湿らすように、舐める桂の赤い舌が、俺を煽る。
「馬鹿か、貴様は?」
馬鹿にしきった声で……それでも桂は微笑んでいた。
「……るせえ」
馬鹿かと問われりゃ、もう馬鹿でしかねえ。正気ですらない。なに考えて、何を言ってんだ、俺は。自覚はあるが……ここに桂が居て、どうやって止められる?
「やらせろよ。見逃してやるから」
見逃すも、何もないだろうが。この距離で後ろを取られたんだ。桂がその気だったら、俺を後ろから刺すこともできた。当然逃げることもできた。
だが、どうやら、俺の言葉を桂はどうやら気に入ったようで、おかしそうに目を細めた。
くすりと鈴を転がすような涼しげな声で笑った。
「……また俺を抱きたいと?」
桂の目に俺が映る。桂が俺を見ているのが解った。見られたかった。桂の目に俺が写ればいいと思った。
桂が俺に近付いて、肩に手を乗せる。
桂の顔が近付いてくる。
綺麗な、作り物めいた整った造作が、ゆっくりと俺に近付いてくる。
唇が、重ねられるのかと思ったが……その直前で止まる。吐息すら触れそうな距離で、桂は俺を見た。
「では、俺をその気にさせてみるといい」
「……かつ、」
ふわりと、唇が重なった。
柔らかく、暖かい温度。に、理性はどうやら溶かされてしまったようだ。
「俺としたいと言うのならば、俺をその気にさせてみろ。そうすれば俺の気が向くかもしれん」
微笑む桂の唇に、意識が持ってかれる。熱が体中に充満した。
「桂……」
唇を、もう一度重ねようとしたら、桂の指に塞がれた。人差し指は、甘えたように俺の唇に乗る。
「ただし、俺には触るなよ?」
ゆっくりと、肩に乗せられた桂の手の平は俺の胸を辿り、下へ……。
服の上から、すでに熱を持ってる俺を撫で上げる……。ファスナーが、桂の手でゆっくりと下げられる。
「っ……」
「なんだ、元気だな」
「るせ」
もう、服の中じゃ痛いくらいにはちきれそうになってるのは、俺も自覚があった。
これを、桂の中にぶち込んでイきてえ。
「自分で、して見せろ。この手で……できるだろ?」
まだ、桂の頬に添えられていた俺の手に、桂の白い手が重なる。体温を感じなさそうな白い手は、人間の体温をしていた。
俺の手は、桂に導かれるままに、怒張している俺の上に乗る。触るまでもなく解ってたが、もう俺のはいつ桂の中に入れてもいいぐらいの熱は持っていた。
「ここを……一人でできるだろう?」
俺は、きっとどうにかなっちまったんだろう。
桂の微笑みに誘われるまま、俺は服の中に手を滑らせて、下着の中から自分のを取り出して、握る。
俺が出したものを見て、桂は楽しそうに目を細めた。
「ほう……もうこんなにしていたのか」
桂の細い指先が、俺の先端に触れた。形のいい爪で、弾かれた。
「っ……!」
デリケートな部分なんだから、丁寧に扱えよ! とか、思っても言えなかった。
そもそも、何、やってんだ、俺は。敵である桂に急所さらして、興奮してんだなんて……。情けないとか、それ以前の問題だろうが。
俺に、正気なんて、もう無いんだろう。こいつに抗う意思は、すでに折れている。
「……土方。俺に見せてみろ」
桂の言葉に、逆らうことを忘れた。
誘われるままに、俺は自分のを扱く。自分がどんな醜態晒してんのかだなんて、誰に言われなくとも自分が一番わかってる。それに相手は、桂だ……敵、だ。
それなのに……ここに桂が居るのに、俺は俺のを触っていて、俺はこいつと繋がりてえって……
……ああ、クソッ!
「握って、そう。動かすんだ」
いつものように、俺は桂の痴態を思い浮かべて、桂が悦楽に歪めた表情思い出して、あん時の熱を思い出して……。
桂の指先が、俺の先端の割れ目をなぞる。ぬるついた透明な液体を先端に広げるようにして、桂は俺のを触った。
これは、敵だ。桂だ。そんなこと解ってんだよ。
圧倒的に不利な状況下で、俺は桂を捕らえて牢屋にぶち込む意志は、いつからこんなに無くなってんだろうか。隊服でも着てりゃ、少しは俺を保てていたんだろうか。
「っ、桂、てめえ、脱げよ」
「……何故だ?」
「オカズに、してやるから」
俺の息が上がってる。
桂が俺のに触れた。桂が俺を見てた。だから、仕方ねえか。何が仕方ねえんだろう。
「……いいだろう」
桂はしばらく怪訝そうに眉根を寄せていたがしばらくすると、またほほえみを浮かべた。
桂は自分の指先についてた俺の出した体液を舐めとると、帯に手をかける。
後ろ手に、帯をはずす、そのまま、するりと、落ちる。
袷に手をかけ、桂の服が、桂の肩から滑り落ちた。
恥ずかしげもなく、服は脱いだ。
白い肌。綺麗な身体。整った肢体だったが、細くて折れそうなのは、服を着てても解っちゃいたが……この身体で、こっちの刀を叩き折るような重い一撃を放ってくる。
綺麗な身体。
かつて、攘夷戦争時代の英雄だと謳われる通り、よく見りゃ、完治してる歴戦の刀傷は薄く残っていたが……。
「これで満足か?」
「男物の下着とか萎えさすんじゃねえよ。てめえがその気になったか見てやるから、全部脱げ」
「……仕方がない」
桂のを、見たかった。
俺がこんな情けない姿をさらして、桂が俺を見て少しでも興奮してんのか、見てやろうと思った。
色気もないような脱ぎ方で下着を下した、茂る陰毛の間から……少しだけだが、上を向き始めていた。
俺の見て、興奮してんのか、こいつ。
息づいた、桂のを見て、俺は何興奮してんだ?
男の見て……俺と同じモンだろうが。それでも、桂のが立ち上がりかけて、少しでも興奮してんの見て、嬉しいだなんて感じた。何考えてんのか自分でももうよく解ってねえ。
服を脱いだ桂は、俺に近付いてくる。
桂は俺に断りもせずに、俺の懐から手錠を取り出すと、それを近くに放った。
かしゃりと音がして、床に落ちる。俺がそれを止めなかったって事は、俺がもう桂の言いなりだって解ってんだろうな、こいつは。拾おうと思えば、いつでも拾えるような場所だったが、俺はそれをする気はなかった。俺が、今桂を捕まえる気がないと、桂に悟らせちまった。
「何してんだ?」
「貴様も服を着たままではしにくいだろう? 手伝ってやる」
俺の肩に額を乗せて、俺の背に腕を回した。
桂の手の平が俺の背をなで下ろし、俺の帯を解き、床に落とす。
桂の手の平が俺の肌に直に触れて、俺の胸の上を這い回った。
煽るような手つきで、
桂は、俺に向けて笑みを溢れさせ……
駄目だ……も……
「……っ」
自分の手の中で、俺のが跳ねた。
俺の雄から勢いよく飛び出した精液は、桂の腹にぶつかった。
「……早いな」
「るせ」
「若いのはいいが、こんなに早くては楽しめない」
へえ……楽しむつもり、あたんだ?
達したばっかだってのに、熱は収束することはなく、俺のは上を向いたままだった。
「なあ……桂」
触るなって、言われたから俺は触んなかった。
もう、いいだろ?
もう、お前ん中に入りたくて、どうしようもねえ。
「……仕方がない」
桂の、ため息を聞いたのが、俺の限界だったようだ。
むしゃぶりつくようにして、桂の口ごと食べちまうようにキスした。逃げらんないように頭押さえつけて、桂の舌を見つけて引きずり出して、噛みついた。
手は桂の白くてなだらかな尻を撫で上げ、俺を入れる場所に指を入れる。無理やりこじ開けるようにして、指を侵入させた。
「っ、あッ……土方っ! 待て」
「もう待てねえよ」
いっぺん味しめちまったんだ。
どんだけ旨いか知ってんだ。もう、これ以上オアズケは出来ねえって。さんざん我慢したんだ。とっとてめえを食わせろ。
俺の立ち上がった性器を桂のにこすりつけるように腰を動かしながら、俺は桂の入り口を広げるようにして中を刺激する。
指が、熱い。
潤みはないが、指が締め付けられるように熱い。ここに……俺のをぶち込んでやるよ。俺のを入れて、中を抉るようにして突き入れて、てめえが足腰立たなくなるまで啼かせてやる。今度、主導権握るのは俺だ。
だから、早く……入れさせてくれよ。
「んんっ……あぁぁ…ん……ぅ」
桂の中に指を突っ込んで、桂の内側を指の腹で刺激すると、桂の口から鼻にかかったような声が上がる。男の声だってわかってんのに、なんでこんなに煽られんだ?
「はっ…あ、あ、ぁあ…」
俺はいつの間に桂を床に押し倒したんだろう。桂に覆いかぶさるようにして、桂の肌に喰い付いていた。華奢な桂の身体は骨張っていて堅かったが、それでも唇を滑らすと、皮膚は滑らかだと感じた。
桂の白い足を曲げさせる。膝裏を抱えて、俺に見えるように大きく広げる。
熱を感じて大きくなった桂の……その下に、今から俺が入れる場所が……ここに、俺のを……押し付けて、少しずつ、桂の中を割り開いていく。
狭くてきつくて、熱くて……
「ああ、土方……」
俺の耳は、確かに俺の名を呼ぶ桂の声を訊いたはずだが、それを理解し、認識できるほどの正気はもう無かったようだ。
「せいぜい、俺を楽しませてくれよ」
了
201109
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