杞憂












「銀時は俺に惚れているのか?」





「ばっっっっっかじゃねえ?」




 リーダーも新八君の家にお泊まりだと言うので、久しぶりに銀時の家で酒を飲み、酔った勢いで久しぶりに裸でプロレスごっこなどで汗まみれになりつつ、ようやく解放されたのが明け方だった。
 寝付いたのが明け方ではあったが、俺は決まった時間になると眼が覚めてしまうので、朝の弱い銀時が目を覚ますまで昼間で待って訊いてみた。ら、

 力の限りの否定が返ってきた。



「……そうか」


 それならばいいが……いや、良いのか?

 いや、まあどちらでもいいが。どちらでもいいが、やはり少し気になったので、確認したくなったから、してみたが……渾身の力を込めての回答がそれだった。




 俺としてはどちらでも構わないので、銀時の回答に異論を挟む気はない。

 昔からの付き合いなので、俺は銀時を好きとか嫌いとかで判断したことはない。旧知の腐れ縁が妥当な言葉だが、親友でもいいし、恋人らしい真似事もしたこともある、剣の腕は互角なので互いに高め合える良きライバルでもいい。

 今更の関係だ。銀時を何かの枠内に押し込めようとするのは無粋なような気がしている。


 昨晩のように身体を繋げることもあるが、決して恋仲であるわけではない。感情が昂ぶり、時にその行為に甘い気持が含有される事も在るが、欲求の解消の手段として銀時が俺を、俺も銀時を使うだけの場合も在る。


 俺は俺で忙しい身上であり、特定の誰かを俺の懐に入れる余裕もないし、俺が俺の立場でなければ、この年齢なのだから、誰か特定の決めた相手を見つけ、子供の一人も居たかもしれないが、現政情ではそのような事を望める立場でもない。


 銀時と致すのは相性がいいのか、とても心地良いし、銀時も特定の相手が現れないうちは、この関係をわざわざ崩す必要性も感じていないのだろう。

 もし、銀時に愛する特別な相手が出来て、俺との関係がなくなった場合……きっと少し寂しくは思うが、身体を重ねることがなくなるだけで、他の諸事に一切の変換は無いと、知っている。

 銀時を好きかと問われたら勿論好きだが、幼い頃から共に過ごし何度も同じ死線をくぐり抜け、血縁以上の絆を確信している。

 だから、好きだと言われれば嬉しいが、嫌いだと言われてもムカつくぐらいだ。
 愛情であろうと友情であろうと、ただの腐れ縁であっても、銀時との繋がりは全てが今更の関係だ。


 今更、どちらでもいい。

 今更銀時との関係を何か妥当性のある言語の範疇に押し込めようとも思わない。

 銀時が、恋をしたいといい、その相手が俺であればその関係も楽しめるだろう。
 幼馴染みだけであれば、時々酒を酌み交わすだろう。
 心を通わした親友を求めるのであれば、それでもいい。

 今は、それら全てを広く浅く網羅するような関係であり、どの関係であっても、なかなか居心地は悪くない。





 何があっても、たとえ、俺達が二度と会わなくなっても……俺が、死んでも……俺と銀時の絆は不朽のものだと信頼している。







「何いきなり馬鹿なこと訊いてんの? 寝ぼけてんの?」

「いや、寝ている時に抱き枕にされて、なかなか苦しかったから」


 昔から、寝入ると俺の身体に腕を回し離そうとしない。
 昨晩など、飲みすぎたせいで便所に行きたくとも、起こさないようにそっと抜け出すこともできない。結局、力業で押し退けたが。

 子供の頃から変わらずに寝顔は無垢なものだと微笑ましく思い、頬に唇を寄せると、どんな夢を見ているのか知らないが、だらしなくふやけきった笑みを溢した。




 そんな昨晩。


 だから、銀時が俺を好きなのかと、僅かな疑念が生まれた。だから、訊いてみた。



「……他に、なんかした、俺?」
「いや。寝言で俺の名を呼んでいたぐらいかな」


「んじゃ、やっぱうなされてた?」

「笑顔だったからいい夢を見ているようだったぞ?」


「ヅラが出てきていい夢、ねえ」



 頭をがりがりと掻く銀時の顔は不満そうだった。




 今更……俺達の間に惚れた腫れたもないだろう。



 どうやら、ただの杞憂だったようだ。
















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20110214
再201108068