貸出












 骨張って肉付きの悪い肩を引き寄せて、力を入れたら折れちまいそうな華奢な身体を抱き締めたら、うるさいって言われた……。




「…………」





 うるさいって何が? 俺がとか言わねえよな? ここ、俺んちで、てめえが読んでるその漫画俺のだろ? んで、うるさいって何がだか言ってみろ。


「貸し出し禁止なのだろ? 俺はあと三時間しか残されていないんだ。あと三十分で地球が爆発してしまうのだから読ませろ!」
「そりゃ漫画の話だろうが! また来て読めばいいだろ?」


 だから、また来いよ。そんなに気になるならまたすぐにうちに来りゃいいじゃねえか。

 そりゃ素晴らしい名作漫画だってのは俺も保証しますが。誰にも邪魔されずにがーって全巻一気に読破する時の爽快感は俺のが良くわかってるけどね!

 つまり、あと三時間したら帰るんだろ? それなのにてめえは俺より漫画ですかそうですか。



 会いたいから遊びに来ませんかだなんてヅラなんかに言いたくもねえし、俺の性格上言えるはずがない。

 だから、勧めた漫画、全43巻は貸し出し禁止。貸してくれって頼まれたけど却下。うちに来て読んでください。だからつまり、またすぐにうちに来てください。

 って意味なんだが……墓穴を掘った、気がする。なにこの放置プレイ。

「なあヅラ……」


 さっきから一心不乱に漫画に没頭しやがって、声かけたって返事もない。何でこいつは無駄に集中力あんの? 返事くらい返せよ。

「………」

「おいって」
「…………」


 返事ぐらいしてもいいんじゃねえの? 耳に穴ぐらい開いてんだろ? いや、ここにヅラが居て、久しぶりに会ったのに、返事されただけじゃ足りませんがね。

 足んねえです。

 こっち見ろよ。お願いだからかまって。かまってくれないと、いい加減拗ねるぞ? てか、もう拗ねてるから。そろそろ俺に気が付いて慰めてくれてもいいんじゃねえ?




「ああっ、もう、解った。貸してやるから! 持って帰っていいから!」

 って、さっきまで異世界に心を耽溺させたまま俺の声なんか一切耳に届いていなかったはずのヅラが、ぱたりと本を閉じた。


 ………聞こえてたのかよ。



「ようやく、折れたな」


 しかも確信犯ですか……。


「では有り難く残りを借りて行こう」
「言っとくけど、一回に五冊だけだぞ」
「何だと? まだ二十四巻だぞ?」

 もう、そんなに読んだのかよ。五冊づつ貸したとしてもあと四回ってことかよ……仕方ねえ。ヅラがまた読みたそうな漫画仕入れとかねえと。

 ヅラがうちに来る口実つくってやんねえとな。


「それに貸し出し期間、一週間だからな」
「なっ……それは困る。せめて二週間にしてくれ」
「てめ、誰の本だと思ってやがる!」

 誰のだと思ってんだよ。てめえが、誰のもんか自覚ありますか?
 俺の目の届かない場所で二週間も俺を放置しないで下さい。可哀相だろうが、俺が。




「一週間か……なんとかしよう……たぶん……きっと………もしかすると」

「一日につき、延滞料、パフェ一つだからな」


 とりあえず、これで、お外でのデートの約束も取り付けることに成功した。そして奢りパフェも食える事が決定した。

 この感じじゃ、どうせ一週間で帰ってくんのなんか無理だろうし。数日後に、いけすかない天人が地球に遊びにいらっしゃるらしいから、こいつらはしばらく忙しくなんだろう。



 パフェ、いくつおごって貰えるか、今から楽しみだ。

 でも、だからさ……早く戻って来いよ。一応約束なんだから、一週間って。

 あんまり俺の事ほっとかないで下さい。寂しくて拗ねるぞ?



「……うっ……お前は一気に七個もパフェを消化する気か?」

「遅れる気満々じゃねえかっっ!」











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