口上












 仕事の用事を済ませて、普通に買い物が終わって、特に今日は依頼も入ってないから荷物を万事屋に置いて帰ろうって思ったんだ。

 冷蔵庫に行く途中にふと部屋の中を見ると、銀さんの横に見慣れた長髪が座ってた。
 なんか、二人でソファに並んで座ってテレビ見てる。この万事屋では大して珍しくもない光景だけど。
 こんな時間からいい年した成人男性が二人で並んでテレビ見てるとか、けっこう寂しくないですか?



 テーブルの上には大福……残り1つ。どう見ても六個は入ってたよな? せっかく桂さんがもって来てくれた大福は皆で分け与えて食べれば良いのに、また箱食いしやがってんのかよ。桂さんも銀さんと友達なら銀さんの健康を気遣って少し糖分を控えるように言ってくれても良いのに。

 そして、銀さんは最後の一つに手を伸ばす……神楽ちゃんが帰ってくる前に箱を処分しないと惨劇になる。俺も食いたかったわけですけどね。


「桂さん、いらっしゃい」


 桂さんが来てたから声をかけたけど、桂さんからの返事はなかった……テレビ見てるの、真剣すぎますよ……しかも……


「……何、見てるんですか?」

 テレビから、何やら『悪は絶対許さない』とか五色揃って叫んでいる声がする。



「今流行りの○○レンジャーだと」

「んなこと訊いてませんよ。俺が言いたいのは、いい年した大人がこんな時間に二人して見てるテレビはそれでいいのかって訊いてんです」

「別に俺は見てねえよ。ヅラがビデオ壊れたらしくて、この前うちで勝手にこいつが録画してた奴」
「……そうですか。まあ、好きにしてください」

 本当に好きにしてください。ってか自分勝手な傍若無人な人達だから、どうせ俺が何言っても好きにするんでしょうけど。


「だから、俺は見てねえって。あ、新八、苺牛乳買って来てくれた?」
「買ってきましたよ」
「もって来て」
「はいはい。あ、神楽ちゃんとさっき会って、姉上と一緒にご飯だそうですよ。少し遅くなるんじゃないかな」

「おー」

 ちゃんと聞いてんのかな……聞いてなくて神楽ちゃんが遅いとか心配しても俺は知りませんからね。ちゃんと言いましたからね。俺はそろそろ帰りますからね。
 見てないとか言いながらもちょうど悪の組織との戦闘が始まった所みたいで、銀さんの視線もテレビに釘付けだ。

 で、とりあえず苺牛乳を銀さんに。桂さんにお茶を入れて、持ってきた。悪の組織の怪獣を必殺技でやっつけて、最後のキメ台詞をテレビの中の五色の人達は声高に叫んでいる。
 確かに子供の頃は見てた気がするけど……俺も子供の頃はヒーローごっこしたような気もするけど、今は見る気はしないな。ちゃんと見れば面白いのかもしれないけど。


 さっき買ってきた洗剤とかしまって、食品とかも冷蔵庫にしまって戻ってきた頃には、エンディングが流れていた。

 銀さんは見てないとか言いつつ、つまらなそうな表情をしている割にはテレビから目を離してない。

 桂さんはさっきと同じ姿勢で、テレビに釘付けだ。



「そんなに面白いんですか?」
 時代劇みたいな勧善懲悪の流れは、見ていて気分が良いかもしれないけれど……明らかに作り物の怪獣やらロボットに感情移入できない年になってしまった。

「んー…、もう二時間も見てるから馴れてきた」

 そんなに見てるんですか……銀さん付き合い良すぎじゃないですか? てか、二時間も見てて飽きないとか、実は銀さんもこういう番組好きなんじゃ……。
 いや、その前に、お前ら昼間っから、そんなに暇なのかよ。

「桂さん真剣ですね」

 もう、エンディングだって言うのに、桂さんは瞬きも忘れてるかもしれないくらい、真剣だ。

「こいつ、集中すると何も聞こえなくなるからな」
「今なら顔に落書きできそうですね」
「できんじゃねえ? あー、でも……そろそろ、やべえかな」

 銀さんが舌打ちした。

「やばいんですか?」

 何がヤバイんだろうか? 好きに見てればいいし、神楽ちゃんが帰ってきたら、神楽ちゃんもこういうノリの話好きそうだから一緒に見ればいいと思うし。桂さんがのんびり万事屋に居るのも久しぶりなんだから、ゆっくりしていけばいいと思う。桂さんが忙しくない方が江戸は平和なんだし。

 銀さんはテレビじゃなくて桂さんを見て、溜め息をついてた。確かに、かなり夢中になっているような気がする。
 桂さんの真剣さはかなりのもので、原爆が投下されても気付かなさそうなくらいだ。


 で、本当に、こうやって喋らなければ美人なのにって、いつも思う。
 桂さんは本当に綺麗な人で、あんまりごつごつと男臭くなくて、女の人みたいに繊細な顔をしていて、銀さんと一緒にあの攘夷戦争で活躍したって言うのが信じられないくらいに、綺麗な人なんだけど……。


 口を開くとすべてが台無しになるから、不思議だ。台無しというか、その美貌を凌駕する馬鹿に、疲労感を覚えてしまう。桂さんは、すべてがパーフェクトなのに、唯一性格だけが残念でならない。今もこの人の視線の先に〇〇レンジャーが流れているという事実がかなりの残念さだ。


 まあ、でも……やっぱり喋らなければ、本当に綺麗な人だと思う。肌は白いし、顔小さいし、目は大きくて睫毛長いし……って。


 一瞬、桂さんに見惚れてたの、銀さんにばれてるかもっ!

 って慌てて銀さんを見た。





 ら、銀さんも、じっと桂さんの事を見ていた……銀さんも、もしかしたら桂さんに見惚れてんのかも?

 銀さんってけっこう面食いだから、桂さんの顔、もしかしたら好きなのかな?





 って思った瞬間、銀さんが思いきり桂さんの横っ面をひっぱたいた。

 パシッていい音がした。



 ……な?




「……っ! 何をする! 銀時!」
「はいはいストーップ! それ、使えねえから」

 何をだ?

「いや、だが、やはりあった方がカッコ良くないか?」

 だから、何がだ?


「正義の味方の口上喋ってる時は敵は聞いてくれるけど、てめえはテロリストだろうが! 喋ってる最中に撃たれるぞ!」
「だがやはり、登場シーンにインパクトをだな……」
「要らねえ!」

「だが、対真選組用に、カッコいいキメ台詞くらいは用意しておいた方が……」
「要らねえからっ! そんなん喋ってる前に逃げろよ馬鹿!」


 銀さんが桂さんの頭を引っ叩いてた。
 やっぱり、桂さんが口を開くと残念でならない。












 けど、よく桂さんの考えてる事解りますね、銀さん。って、言ったら俺もまきぞえ食らいそうだったから、言わないでおいた。
















20110206→0712
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