ひでえ、夢見た。
殺される夢見た。死ぬ夢見た……ヅラが。
俺の身体中の中味全部が潰されたような喪失感による痛みと、俺の魂自体が斬られたような錯覚に、内蔵の底から全部吐き出すぐらいに叫んで、目が覚めた。
全部がひんやりと汗で寒いくらいだ。嫌な夢見た。
慌てて、隣、見る。
うすぼんやりと暗い部屋の中で、ヅラの肩が微かに上下してた………良かった。当たり前なんだけどさ。よかった……なんて思ったんだ。
生きてた。
良かった。まだお前に触れる。
良かった。
お前がまだ近い場所にいる。触れる距離にある。起きたら、また笑ってくれる。馬鹿な話してくれる。お前が呼吸してることだけで嬉しくなれる。お前のその皮膚の下に赤い血液流れてる事が、こんなにも嬉しくなるなんて、お前知らないだろ?
これも、夢だったりしない? 大丈夫?
ヅラの呼吸を確認しようとして、その時にようやく俺の右手がヅラの両手で拘束されてた事に気付いた。
俺の手はじっとりと汗ばんで、冷たくなってて……ヅラの手の温度に、安堵した。
良かった。お前が居てくれて、起きたら隣にお前が居て良かった。
……起こしちまわないで、良かった。
夢の中であんなに叫んでたのに……起こさないで、コイツが起きなくて、良かった。
あんな夢を見て………起きてたり、見られてたりしたら……心配、されんのかな? せめて、馬鹿にしてくれりゃいいけど。
お前にあんまりカッコ悪い所、見られないで良かった。
もう少し、体温感じたくなって、俺はヅラの手を、少しだけ力を、込めて握った。手が、暖かかったから、安心した。
そんなに力を入れたわけじゃないけど……。
ヅラの両手が俺の手、握り返してきた。
何だ……起きてたの?
何だ……寝たふりしててくれたんだ。
さすがは旧知の腐れ縁。
傍若無人で、誰が何を思っても考えても、気にせずに前だけ見続ける事ができる奴だけど……ぶっとい、一本芯が曲がらない奴だけど。
何だかんだ言ってても、結局、コイツが俺の事一番よく分かっててくれてる。結局こいつ以上に俺を把握してる奴なんていないんだ。
寝たふりしててくれたんだ。ありがと。言わないけどさ。今後こいつにこの言葉なんて言う気ないけど。お前が存在してるってことだけで、俺がすごく嬉しく思ってるだなんて、一生言わないけど。
だからさ、もう少し、寝たふりしててくんない?
気付かれたくないんだよ。俺の涙とか、今、どうしても伝えたい言葉とか、聞かないでいてくれよ。今、ものすごく言いたいんだから、絶対に聞くなよ!
「なあ、ヅラ……」
手の、握る感覚で、ヅラが起きてるだなんて、わかってる。俺も面倒だと寝たふりするけど、お前もけっこう狸寝入り、上手いな。
「そばに居てくれて……」
お前が、今でも、俺の一番近い場所にいてくれて
ありがと。
了
20101216
だいぶ昔に書いた話
話、というか、もはやただのポエムじゃないか……
そろそろ本格的に在庫一掃して新規商品投入したい。
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