「なんか、ずっと変な夢見てた気がする」
ヅラの話によれば、オッサン的な女神様に金の俺を渡されて、俺じゃなかったから返却したらしいが……。ヅラはヅラで妙な夢見てたんじゃねえだろうか。俺は俺でやっぱり妙な夢でも見てた。んだと、思う。事にした。
少し頭痛い気がするけど、やたらと変な夢ばっか見てた気がするけど……何かもういいや。ヅラの顔見たらなんか安心してどうでも良くなった。
ここにヅラが居る。
ヅラが居た。なら大丈夫か。何が大丈夫かって訊かれてもわかんねえし、実際頭痛くて大丈夫なわけじゃねえけど、まあ、大丈夫だろう。
変な夢見てただけだと思うけど、なんとなくようやく帰ってこれたような気がして、何だかほっとしてる俺が居る。ここにヅラが居るし。
別に、ヅラが居るから、大丈夫。そんな根拠のない確信には絶対の信頼を込めてる。だって、俺の隣にヅラが居るってことだろ?
「そうか」
「ああ、すげえ変な夢。訊きたい?」
「要らん」
「ヅラが可愛くて色気があって優しくて俺のこと大好きなの」
「そうか。風呂に行って水でも被って来い」
ああ、やっぱヅラか。どうやら夢の続きじゃないみたいだ。いつも通り興味なさそうだし、会話を続けるために訊く気もなさそうだ。
「なあ、試しに膝枕してみてよ」
「何故俺が?」
「じゃあ、先生って呼んでみて」
「馬鹿か?」
つまんねー。色気ないし。やっぱヅラだ。
今まで何であんな夢見てたんだか……欲求不満か? いや、俺の相手がヅラってことで俺の欲求が充足されるはずもないけど。
悔しいことに、俺はどうやらヅラ以外じゃ満足できないみたいだし。
本当、悔しい。
なんで、ヅラなんだろうな。
手を伸ばす。
そっと、ヅラの頬に触れると、少しだけ……たぶん三秒ぐらい俺の手の温度感じてから、振り払われた。
俺の手は元の場所に戻った。畳が、ひんやりする。
夢の仲じゃ俺はヅラに膝枕してもらっちゃってたけど、今は畳の上に頃がされるように寝てる。
そこに座布団あんだから、枕ぐらい敷いてくれたっていいのに……頭痛え。湯船に投げ込まれて溺死寸前で三途の川渡りかけたせいでの頭痛な気がする、やっぱり。
んで、死ぬ前にはいっぺんぐらいいい思いしたいって欲求が俺にあんな夢を見せたんじゃねえだろうか。
変な夢だった。
本当に、どこかも解んねえし、ヅラはヅラだったけど、やっぱりなんか変な感じだった。
今は、見たことある場所。
ヅラんちだ。知ってる。この前来た。最近落ち着いてるから、場所もころころ変わらなくなって、俺もたまに遊びに行く。だから知ってる場所。
「なあ」
「何だ?」
「時間ある?」
今何時かよく解んねえけど……今日って仕事無かったよな? あってもいいや。なんか、夜みたいだし。朝までに帰ればいいや。
なんか頭痛いけど、別にこの程度耐えられないほどじゃねえし。
さっき振り払われたけど、もっかいヅラに向かって手を伸ばした。
「何だ? するのか?」
単刀直入すぎるって。
やっぱり色気がない。さっき夢の中じゃ、顔を赤くしてみたり、可愛かったり色気あったりとか……理想的なヅラが居たけど。いや、本当に理想言うんだったら、せっかくだったらヅラが女だった夢を見たかったような気もするけど。
「んー、なんか、たまにはそんな気分」
けど、まあ、やっぱりこれがヅラなんだろう。
俺の知ってる、俺のヅラは、目の前にいる。
ヅラに向かって伸ばした俺の手は、今度は握られた。
「珍しいな。俺もだ」
了
20111111
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