eri-2











 ……増えてる。


 いや、なんか増えてるよな?


 俺の見間違いじゃなけりゃ、絶対増えてる。


 二度見どころか三度見以上した。しかも目も擦ったし、自分の正気まで疑ったが……やっぱり増えてる。




 あれ、分裂して繁殖するタイプだっけ?
 いやいや、ただのヲッサンだろ? オネーサンならまだしも、オッサンが分裂で増えてったら世の中破滅まっしぐらだろ?

 ……なにが起こった?
 新手のウイルスか? オッサンが分裂で増殖するとか、誰が持ち込んだんだ?





 なんか、ヅラが白いの二体連れて歩いてんだけど、どういうこと?


「銀時!」

 しかも話しかけてくんな!
 知り合いだとか思われたくねえ!
 他人のふりさせてくれテロリストを自覚しろ頼むからお願いします!


「よぉ……」



 何それ? 何で増えてんの?

 って訊いてもいいか?

 いや、できれば聞きたくない。それは結局、謎のままにしておいた方がいいんじゃねえの? てか、いちいちその事につっこみを入れたくないんだけど、ヅラの反応が何となくわかるから、絶対にその話題に触れたくねえのですが。



「いい天気だな。こんな日は散歩日和だが、銀時も散歩だったのか?」
「……いや、仕事」

 終わったからパチンコ行って帰るとこ。

「そうか。ご苦労様。この前借りた漫画を返しに行ったんだが、留守だったんでな」
「……ああ、悪ぃ」

「これから大丈夫か? 用を済ませたら万屋に顔を出そうと思うが」
「…………ああ」

 ヅラが来んのはいいけど、別にいいけど、特に今日なんか神楽もお妙んとこにお泊まり行くんだそうで、別にヅラだけなら朝帰り覚悟で替えの下着持って来んならいいけど……。



「今日は特に予定が無いから、のんびり遊びに行こうと思うが、銀時は大丈夫か?」

「あ、まあ……」



 でも……まさかウチにそれ、連れて来る気じゃねえだろうな……。

 誰か今すぐ作って!
 1メートル以上の白い脛毛の生えた妙なオッサン的な生き物は万屋に侵入禁止って法律作ってくれ!


 って、俺のじっとりした視線に気付かなくてもいいのに気付きやがった馬鹿は、まるで花でも散らすような笑顔を振り撒きやがった。

 ちょ、その顔、反則!
 ヅラが美人なのはガキの頃から知ってっけど、うっかり見惚れそうな笑顔反則!


「聞いてくれ、銀時!」
「嫌です」

「今朝起きたらエリザベスが増えていたんだ」
「あ、やっぱ、俺の目の錯覚じゃなくてオッサン増えてんだ?」

「まさに両手に花だろう? クリスマスでもないと言うのにサンタクロースもなかなか粋な計らいをするものだ」
「……それ突っ込まなくていい? 俺のツッコミスキルの許容範囲越えてんだけど」




 色々限界越えてます。

 こんな生物が二匹もだなんて!

 折れる……心が。



 ただでさえいつもいつもヅラとの仲を邪魔しやがってんのに!

 この前もヅラんちでいい雰囲気になって、珍しくヅラも乗り気だったってのに、キス仕掛けようとしたら茶を出してきやがった。
 その後も三十分置きにヅラに用を言ってきやがって。最後のなんて『桂さん! 今、テレビで猫の特集やってますよ』って、何の嫌がらせだ!
 俺と猫とどっちが上だ?

 帰る時に勝ち誇ったような顔された……表情なんか無い幼稚園児の落書きみたいな顔してるくせに、俺のハラワタ煮やしてくれるようなドヤ顔しやがった。
 けっこう、俺根に持つ方だと思うけど、仕返し的なことを考えてるわけじゃねえが、普通にムカつく。


 ヅラは相変わらず白いのを両側にはべらせて、幸せそうに笑ってる……ヅラがこんなふうに笑ってんのはいいけど、背景が残念すぎる。




『桂さん、帰ったらウノやりましょう』
『たまには神経衰弱とかどうです?』
「花札なんかもいいな。三人いれば盛り上がるだろう」

 うぜー……仕事しろテロリスト! いや、市民の平和のためには一生花札やってくれてた方がいいけど。

 いや、そもそも今から俺んちじゃねえの? 漫画返しに来んだよな? んで、たまにはしっぽりだよな?



「ああ、エリザベスは愛らしいな。そうは思わんか、銀時。しかも二人も。可愛らしさが倍増だ」

 てめえの脳ミソの春も倍増してるって。いつも済ました表情してるくせに、さっきから花撒き散らして笑うな。こっちの脳ミソも春が伝染しそうだ。


『桂さんの方が可愛いですよ』
「いや、違うだろう?」
『そうですよ、桂さんはカッコイイですから』
「ははっ、解っているではないか、エリザベス」






 うぜーうぜーうぜーうぜええェッ!


 何なの?

 一体何なんだこれは。俺、今どんな悪夢見ちゃってんの? 頬っぺた抓ってみましたが、痛いとか、悪夢?



「でわ、ちょっと用を足してくる」

「ああ」

 あ、仕事すんのね、テロリスト。
 そのままその白いの連れてどっかに消えてくれ。

 って思ったが、白いのは動こうとせず……ん?



「って、用を足すって、まさか便所か?」
「ああ、だが小の方だ」
「そんな報告要らねえっ! 知るか! 逝ってこい! 便所と心中してこい!」


 何なのコイツ本当になんでこんなに俺の心折るの得意なの?

 見た目はそこらの美女じゃ太刀打ちできねえような美貌で、笑えば大輪の花が咲いたような笑顔で、何でこんなに気にしないの!?

 頼むから少しは自分の外見気にしてくれよ!


 本当に、何で俺が未だにこいつに惚れてんのか自分が自分で可哀想。


 ヅラが近くのコンビニに消えてくの見送って……。





 さて……。


 こっちか?




 さっきから、挙動不審な方……いや、存在事態が不審者過ぎて挙動不審もあったもんじゃねえが、なんか違和感あった方の白いかぶりモン、

 ひん剥いた。




「うわぁっ! 坂田さんっ! ちょっとタンマ!」

 中から出てきたのは、俺よりも少し年上のオッサン。



「何だよ、てめえ。一体何の真似だ!」

 まあ、予想は的中して、出てきたのはヅラの腰巾着の一人で、俺も見たことがある顔。
 マジで何の真似だ! 白い被りもんなんて流行らしてんじゃねえよ! 心臓に悪い。江戸の見た目にも公害だろうが。


『……なんとっ!?』

 白いのは、予想外だったようで、目を丸くしてる……のはデフォルトか。表情読めねえっての!


「何の、つもりだ」


 なるたけ、低めの声、出そうと思ったんじゃなくて出た。さっきから感じてた重力、全部声に込めた。



「すいませんっ!」
「すいませんじゃなくて何のつもりだって訊いてんだよ!」

 何のつもりで、白い妙な生き物増殖させやがった!?


「うわあっ、桂さんの為だと思って、皆で決めた事なんですよ」
「ヅラの何の役に立つつもりだ! ウザさが倍増してんじゃねえか!」

「だから……あの……」




 で、聞くところによると、この前もだが、その前も、危ない事も何でもヅラは一人でやっちまう。

 昔から器用な奴だから、一人で何でもできるし、危ない事なんかは人に頼んだりしなくて。

 この前、ボロボロだったし。
 半月くらい前、日課みたいにうちに来て、新八が茶を出す前にぐっすりお休みだったりとか。そんなこと、頻繁だし。部下の前で情けない姿は晒せんとか、偉そうなこと言いながら家に来て寝てんじゃねえよ。


「俺達が頼りにならないのは、自分達で解ってんです。でも桂さんばっかりが大変な目に遭って、俺達、足手まといかもしんないけど、少しでも桂さんの役に立ちたくて……」

 昔から……ヅラはなんでこう言う、信望者っていうか、崇拝者っていうか……支持を集めんのが得意なんだろうか……オッサンばっか。

 確かにヅラの部下には優秀な手駒が少なくて、ヅラのカリスマがでっかいからまとまってるようなもんだけど。こいつらだって、そのくらいは自分達で理解してて、自己嫌悪になってんのか。
 ヅラが強いのがいけないんだか何なんだか。



 力が足んないって、思って、悔しかったりした気持ち、俺も経験あるから解んなくねえけど……。




「だから何で、その白いバケモノ増やす必要があんだっ!」
『失礼なっ! 私はバケモノなんかじゃありません』

「桂さんはエリザベスさんには何でも良く話すから、エリザベスさんが二人居れば桂さんの負担も減るんじゃないかと思って、交代でエリザベスさんの中に入ろうって……」

「へえ……」
『……お前らは私の能力を過小評価していないか? いくら私の格好をした所で、私に敵うわけがない』



 相変わらず、好かれてんのな……オッサンに。
 相変わらずだけどさ。なんだかんだ言って、けっこう人のこと見てるから、すぐに他の奴の顔覚えたりとか、やっぱ妙なカリスマがあって、部下にした奴、一人でも無碍に出来ない性格は昔からだからさ……。





「だってさ、ヅラ」

 この白いオバケ被ってたオッサンが必死だったから、気配なんか気づいてなさそうだったから。






「お前達……」

「桂さん……」

 コンビニから出てきたヅラが、隣で聞いてたのに、気付いてなかったようだったから……。





「ありがとう」

 ヅラは、オッサンに向かって、そっと目を閉じた。そして、オッサンの手を握った。


「桂さんが、だってこの前だって三日くらい寝てなかったし、この前だって桂さんだけ怪我して、俺達、は何にもできなくて……」
「すまない。だが、お前達が傷つくくらいならと……」

 昔からそうだったよねー、他人頼らないで何でも自分でやろうとする性格。そりゃヅラは何でも完璧にこなす奴だから、他の奴に頼るよりも自分でやった方が効率的なのかもしれないけど。
 頼られてないような気がしちまうんだろうな。

 大事にしてる奴、全部背中に庇って、矢面には自分だけが立てば良いとか、そんな事思ってる奴だって知ってたけど……まだその性格直ってなかったのかよ。



「桂さん……俺は……俺達は……」
「だがな、エリザベスの振りをせずとも、俺はお前達を頼りにしている」
「でも……」
「俺の事をこんなに想ってくれる仲間がいる。それだけで、どんなに心強い事か、お前達にはちゃんと理解してもらいたい」

「桂さん……っ」
「ありがとう。俺はお前達と共に、この江戸の夜明けを見たいと思っている」
「俺はっ……俺は、一生、ずっと、桂さんに付いていきます! どこまでもっ!」




 あー……男泣き……うぜー。



 こんなコンビニの前とかで、イカツイオッサンの男泣きって、どんだけうざいんだ……てか、コンビニへの営業妨害だっての。早く何とかなんねえかな……。



「ああ、もう。ほら、泣くな」

 ヅラが、懐からハンカチ出して渡して、そしたらオッサンはもっと泣き出した。オッサンがヅラのハンカチを握り締めて、涙も拭かずに下向いて泣いてやがるとか……いい話してるらしい途中で悪いけど、本当にうざいんですが何とかしてくれねえ?







 それにさ、

「そのハンカチ、トイレから出て使った奴だろ?」

 今トイレから出てきたばっかって事は、そのハンカチ使ったんだろ?



「大丈夫だ。俺は小の時は手を洗わん」





 ………………………。




「てめえ! 国の大事をなす前に、手を洗え!」
















20110705
4200

「神聖モテモテ王国」(マイバイブル)
「天下国家を語る前にパンツを穿け」byオンナスキー
を、思い出した。