At last...
03











 俺、何やってんの?

 びびったけど、自分がなにやってんのか自分で信じらんねえのに……。
 ふんわりした、温度が……思考を奪う。

 性格も堅物で身体だって筋と骨で構成されてるくせに、唇は柔らかいんだ、なんて、何考えてんだ?

 そもそも俺は何やってんだ?

 キスは、一瞬だったけど……すぐに離したけど、というか、時間わかんない。

 時間なんか、あったのかすらもわかんない。
 きっと、なんかの錯覚だとか、事故だとか、そう、思うにはヅラの唇は柔らかすぎた。
 余韻だか何だか、突き放して、今のなしだって喚き散らしたいぐらいだってのに、離れがたくて、しばらく額くっつけて、ヅラの目を見つめてるのに気付いた。

 そっから、ようやく時間が動き出した。

「……銀時?」

 どうしたんだ? と、訊かれたくない。訊かれたって答えられるはずがねえ。答え知りたいのこっちだって! 今、俺ヅラになんて思われたんだろう。いや、だって友達だから。幼馴染だから、腐れ縁だから。キスなんて普通しねえだろうけど、いや、やっぱり事故だから、ただの。魔が差しただけだから。

「何でもねえ……」

 だから、頼むから何にも言うな!

「そうか」

 …………………そうか。


 じゃねえ!


 俺が何でもねえわけねえだろ!
 お前だって何でもないってのに、納得してんじゃねえ。

 キスしたんだぞ、今! 何かないの? 普通に受け入れてんじゃねえよ! オトモダチにはあるまじき行動とったけど? ツッコミすらもなし?

 しかも何事もなかったかのように、茶を飲んでんじゃねえ!

 とか、言いたくても結局言葉が選べなくて、ただ視線に色々込めた俺がヅラをガン見しててもヅラは何も変化ない。三分前とまったく同じ。


 ……何これ。
 何で俺がこんなに……。
 それでこいつはいつも通りだし……。

「お前さあ……」


 なんか……すげえムカついた。
 何か欲しいとか思ってるわけじゃねえはずなのに、何にもないこいつにすげえ腹が立った。俺がこんなに腹に淀んだ色抱えてんのに、当の本人は今の行為と茶を飲む行為と同じレベルなんだと思うと、一言どころじゃなく、少し説教したいような気分になった。

「何だ?」
「好きだとか言いながら、俺はどうでもいいの?」

 好きだって、それがお前の感情で、俺がどう思ってたって別にいいんだ?
 俺が何考えてても構わないんだ?

「何がだ?」
「俺に好きになってくれとか、ねえのかよ」

 そっちが一方的に気持ち押し付けるだけで、こっちの気持ちは無視ですか? ただ言いたいだけって、言われる度に、俺がどんな気持ちになってるとか考えねえわけ?

「いや、特にないな」
「………」

 コイツ……。

 たまには相手の気持ちになるとか、大事だと思うんですが。空気読む以前に、相手の気持ち少しぐらい考える事も必要だと思うのですが。
 昔から傍若無人な奴だって思ってたけど、惚れた弱みとか、そういうの、ないの?
 俺の気持ちってどこにぶつけりゃいいの?








「だって、どうせ銀時は俺を好きだろう?」



 って?

「は?」

「お前も、だいぶ俺に惚れているだろう?」

「……なにその自意識過剰」


 俺、そんなこと言ったっけ? お前に好きだとか言ったことねえよな? 昔からそういう態度取った事ねえよな? お前がガキの時分、美少女にしか見えない外見で、性別を間違われて色々と告白されてた頃とか、攘夷戦争佳境で回りに男ばっかで、明日死ぬかもしれないからその前にやらせてくれとか必死な告白すら一刀両断だった頃や、今だってなんだかオッサン達に大人気なお前に対して、俺はヅラへの態度、一度も変えたつもりないけど。

 好きだなんて、言ったことないし、思ったことないし。


「俺の勘違いか?」
「……」

 好きだって……ナニソレ?

 俺が? ヅラを?


 だって、今更だろ?


 今更……、言わなくたって、そんなんどうだっていいくらい、俺にとってのヅラの位置は不動で、俺とコイツの距離は変わらなくて。
 好きだとか、そんなん無くて、ただ、お前がヅラだってだけなのが、すごく特別なんだ。

 この特別に、名前つけたくない。言葉なんかにしたら、粗末なもんになりそうな、気がしたんだ。具体的な感情じゃなくて、俺にとってもっと至高なものでありたいから、いちいちそれを言い表したくねえ。

 って思ってるのは、ただの俺の我が儘か?


 
 ヅラにとって俺の位置は、俺にとってのヅラの位置と変わんないの知ってる。何があっても。きっとヅラが居なくなっても、俺が死んだって、俺達の関係は変わらない。

 それが、お互い様だってのも、俺達だからこそなんだ。お前にとっての俺の価値がどの程度なのか理解してる。それで、お前も同じ重量で俺の場所を決めてる。


 お前が俺を好きだって言うなら、俺だって変わらないんだと思う。

 ヅラん中の俺の位置は誰にも譲れないし、他の誰かがその場所に居るなら、それは許せねえ。そんな事絶対にありえねえって安心してるわけだけど、でもヅラにとっての俺の位置は絶対に誰にも渡せない。
 それって、イワユルただの独占欲ってことか?


 けっこう、俺が思ってるより、単純な事だったわけ?



「……勘違いじゃない、です」

 たぶん、きっとそうなんだろうな。

 昔から、安定してた俺達の距離は、誰にも置き換えるなんかできなくて、ヅラだからって特別で。

 その特別をわざわざ名前つける気にならなかっただけで……。

 ああ、そっか。好きなんだ。



「そうだろうな」

 ヅラは別に特に表情を変えなかった。相変わらず、さっきと同じ。

「……てめえ、ヅラのクセに」
「何だ?」

「ムカつく」


 そう言ったら、ヅラは俺を見て笑った、その顔に、思わず見とれた……情けねえ。昔からそんな事、時々あったけど。昔から隣に居るのに、時々こいつの笑顔に時間が止まったような錯覚する。仕方ねえか、こいつ、昔から美人だし。

 昔から、変わんないんだ。俺達が俺達以外の何かになるはずなんかねえんだ、結局。

 だから、どうせこの感情だって今更だって。昔からずっとヅラの事が好きだったようで、そのまま好きだなんて認識しないまま、今があるから、別に今更なんだ。

 好きだとか。そう、今思ってみたけど……そう、思ってヅラの事を見た。

 やっぱり、ただのヅラだった。

「結局、今更だろう?」
「今更だからムカつくんだよ」

 今更、変わらないって。

 ヅラが今更って言った理由を、ひどく納得した。
 そんで、こいつはそれを当たり前のように理解してた。

 ヅラのクセに俺より先に気付いてんじゃねえよ。普段鈍感で空気すら読まないくせに、なんでそんな大事な事、俺より先に気付いたりすんだか。

「だが、今更だったろう?」

 勝ち誇ったように笑われたら、そりゃ俺だってそれなりに負けず嫌いだし、お前なんかに負けたくねえから、やっぱりムカついた。
 スカしたコイツの顔を、どうにかして一泡吹かせてやりてえって思った。


「何ならもっかいキスでもする? それ以上とか?」

 手を伸ばして、ヅラの細い肩抱き寄せて、顔を寄せた。好きだなんて気付いたら、こんなことも別に変じゃないような気がした。
 キスできそうな距離。さっきもしたけど。


「俺に自覚させたんだから、そのくらいの覚悟はあんだろ?」

 真っ赤になって硬直したヅラの顔が、今更可愛いだなんて、やっぱりすげえムカついた。

















101024

誤変換
今更だろ? →今サラダ路?
 ……きっと、旬の野菜がもりだくさんな商店街なのだろう。
9400