04
俺は銀時から少し距離を取った。間が悪い。色々悪い、どうにも最悪だ。
まずい! 果てしなくまずい!
銀時には言ってないが、言うつもりもなかったし、できれば忘れたいが、俺は芋侍副局長と面識がある。
テロリストとしてであればまあ噂の鬼の副長なる人物と対峙したことはあったが……。
俺はかまっ娘倶楽部で銀時には言わずに何度かバイトしていたことがあるが、本当に金策に苦労し日々の食費を稼ぐためにやむを得ず、あそこは日当だし……その時に会ったことがある!
俺にストーカー行為を働く客が連日俺の帰りを待っていて、俺の腕を掴んで放さなかった。
金払いもいい上顧客でもあったので毎回まいて帰っていたが、アジトを嗅ぎ付けられても困る。引っ越しをしたばかりだったし、その時に進めていた作戦もあったし。
だが、店に迷惑をかけることになりはしないだろうか。だがこんな男に関わっている暇はないと、結局つい殴り倒そうかと思った時に、土方に助けてもらった過去がある。
真撰組の隊服はそれなりの効力があるのか、姿を見ただけでストーカーは逃げていった。
『姉さん、アンタ大丈夫か?』
芋侍は暗かったし俺が女に見えたのだろうか。多少距離もあったしな。遠近感が狂っていたのだろう。俺はそれなりに身長もある。
助かったし。
ちゃんと仕事をしているんだなと。いつも俺達の邪魔ばかりしているが、まあ今日だけは認めてやろう。
まあ、本当に助かったし。あと少しでSランクの上顧客を殴るところだった。店で西郷殿の目が光ってさえいれば悪い奴ではないので、また店で会いたいものだ。
俺はかまっ娘さん達とも仲良しだし、銀時とはまあ昔から関係があったりしてそれなりに理解はある方だと思うが……思っているつもりだったが。
はっきり言って、銀時以外からの男の好意は気持ち悪い。
俺はどうやらちゃんと男であるので、やはり惚れられて嬉しいのは女性からなんだ。男に髪が綺麗だの顔が好みだの言われたって喜べるか!
銀時はいくらでも言えばいい。少しは俺を讃えろ。とか思ってるんですけど。そんなことで、今まで何度か……数えたくもないが、男からアイノコクハク等を受けたこともあるが、気持ちの良いものではない。心が女性であるというならば、それはそれだが。
だから憎っき真撰組(カス)だと言えども助けてもらったことに対しては恩を感じた。こうやって俺達攘夷志士の邪魔ばかりしていないで世の中の平和を守っていればいいんだ。
犯罪は数知れない。
『助かった。感謝する』
とりあえず下げたくもない頭を下げてやった俺は、それだけで帰ろうと思った。
『姉さん、アンタ声低いな』
当たり前だろう、男なんだから。とか、言いたかったのだが……。まあこんな格好をしているんだ。店も終わって深夜だ、暗いし。酒を大分飲んでしまい、着替えるのも億劫でヅラ子の装いのままだから、顔さえ見られなければ、女に見えるのかもしれないが。まあ俺が『桂』に認識されていなければいいのだが……それにしたって。
『失礼ではないのか?』
女性だと思ったとするならば、女性に対してはその言葉はもしかしたら気にしているかもしれないぞ。
だから芋侍なんだ。
まあ、俺は男だから気にしないが。
『すまねえ。ほら、行くぜ』
『どこへだ!』
気付かれていたのかっ!?
行くってまさか屯所のことか? このまま屯所まで連行されるのか?
今は脇差ししか装備がない。あとは煙玉が2つ。逃げるかしか選択肢がない。あの店に来てたボケナスのせいでこんな所で……!
捕まるにしたって、この格好でか?
狂乱の貴公子ともあろう俺が女物の着物で捕まるのか?
恥もいいところじゃないか!
『けっこう』
もしや……俺の正体に勘づいての台詞なのではないだろうかと……。
だとしたら、適当に撒いてしまわなければ。
ここで執拗に拒否した方が、マズイ事態になるのではないだろうか。
ああ、もしかしたら、俺の正体に気付いて……。どうしようか。
とか……思った俺はアサハカだった。
『アンタの家だよ。また何かあったら困るだろ?』
…………いやいやいやいや、困りますから!
アンタ達におうちばれるわけにはいかんのだ!
『近いのでけっこうだ』
『危ねえだろうが。こんな夜更けにアンタ見たいに綺麗なか弱い女が一人でふらふら歩いてたら!』
芋侍は芋で馬鹿は馬と鹿だ。
そうか、この芋には俺が美人に見えるのだな。そうか、俺は綺麗なか弱い女に見えるのかふざけるな。
確かに体格は大して良くないが! この身長! お前と対して変わらんだろうが! この声を聞いてもまだ女とか思うか馬鹿者が。こんな奴に江戸の平和を任せていいのかいやよくない!
貴様ら幕府に世を預けるわけにはいかない。やっぱり攘夷だ、日本の夜明けを見なければ!
『怖かったら俺んち来てもいいぜ』
……迷惑ですから。
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090415
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