03
鬱陶しい。どうにかして早くこの場を去ることができないだろうか。何故だ!
何故いつも真撰組は俺の邪魔をするんだ!
いや、現在の政府にとって俺の思想を推し進めることは不本意にも犯罪になるらしいので、まあ警察は邪魔するべきなのだろうが……。
今は別に何もしていないだろうが! 最近はまあ裏で色々工作をして、気に入らない天人が江戸に入れなくなるように画策したりとかしているが。別に破壊活動に精を出す時代は終わったんだ!
さっさと道を開けろ!
こんな所でのたのたしている暇などはないのだ! おまえら芋侍と違って俺は忙しいんだ!
早くあっちに着いて持ってきてもらっているはずの何時もの着物に着替えて、化粧も落としたい。化粧をするとやはり化けるもので、俺の顔がまるで女のように見えてくるから不思議だ。といっても今日は目元に色も入れず、紅をさしただけだが、それでもやはり唇を赤くするだけで顔が女のようになる。キスしても落ちないとの触れ込みで人気を博している口紅だそうだが、唇を舐めたりした時に体内に入り込んでそれが害にならないのかが心配だ。女性は常にこのような恐怖と戦っていると思うとやはり尊敬の念を向けざるを得ない。
今はオカマとして仕事をしたが、これから向かう仕事は俺の仕事であり、俺は男なのだから、化粧くらいは落とさねばならないだろう。
こんな所で真撰組に捕まってる暇などはないのだ!
しかも、この若造は柔和な顔立ちとは裏腹に腹黒く、同士が幾人もこいつの被害に会っているんだ。
気に入らない奴だ。
が、こいつはまだいい。一番隊隊長の若造は鋭いから俺の顔に気づいているかもしれないが、何よりも自らの欲求を優先させるタイプだ。配管工のおっさんに扮して真撰組と対面した時も、この若造の視線だけは何やら曰くありげだったから、気付いていたのだろうが、こいつは暴れる対象として俺の存在価値を認めているはずだ。
鬱陶しいことこの上ない程度に俺はこの若造が嫌いじゃない。まあただのアホで俺の買いかぶりかもしれんが。
この場で何かあるはずはないが、厄介だ。
ついてこられたりしても困る。
何とかしてまいてしまわなければ。
「旦那はこれからお楽しみですかぃ?」
「あー、いや、まあ、なんつーの?」
銀時は鼻の下を掻きながら曖昧且つ不明瞭な表現を用いた。
煮え切らない奴だな! これから俺とちょめちょめだろうが! そのつもりで誘ったんじゃないのか! お前だってかなりたまってるはずだ! 何だ恥ずかしいのか? 結局はするんだろうが。男らしくないぞ銀時! 代わりに俺が言ってやろうか?
………いや、仕事が先か。サボったら怒らるのだろうなあ。
「俺は仕事なんでさァ」
俺だって仕事だ!
「いやいや、アンタら国民の血税で生活してんだからお仕事しなさいよ」
それにしても、何故銀時はこんな奴とのんきに話をしているんだ!
敵だぞ! 俺の敵だぞ! 何度か殺されそうになってんだ! まあこんな奴ごときに俺が捕まるはずなどないがな。
それにしたって何だその馴れ合いっぷりは!
ぐだぐだと下らない事を喋りおって井戸端の奥さんか、貴様は! この間井戸端で出会った奥方は綺麗だった。今度また会いたいものだ。
ああ、さっさとこの場を切り抜けなければならないのに……。そもそも銀時がいたからこんなことになったんじゃないのか?
俺は女装しているのだし、銀時がこんな奴と知り合いだったりするのだから、こんな道のど真ん中で立ち往生しなければならくなったのだ。一人であれば俺はこの若造の横を通りすぎることだってできたんだ。
俺は気配を絶つ術を会得しているのだから、この格好であれば、気付かれずにすり抜けることすらできたはずだ。
そうでなくとも、常に気を張っているんだ。
真撰組の気配を感じることなど容易い。
気配を感じたならば他の道を選ぶことだってできたんだ。お前の手を繋ぐかどうか思いあぐねいているうちにこんなことになったんだ! 責任を感じて俺に謝罪しろ!
それに、この若造はどうだっていいんだ。気付いていても、俺から動かない限り、今は手を出してこない自信がある。
ぶっちゃけ真撰組の局長も甘い。手合いすれば中々の剛腕と見たが、俺のスピードについてこれる奴はそうそういない。フルーツチンポ侍が芋侍の棟梁だとは知らなんだが、あの時だってあの芋侍の棟梁を巻くのは容易かった。
それではなく、俺がこの厄介な集団の中で一番厄介に思っているのは、副局長である土方とか言う男……。
真選組の頭脳だかなんだか知らないが、あの男は要注意だ。
あいつがもしここに来たら厄介なんだ。
どんくらい厄介かと言うと、言い尽くせないほど厄介なんだ!
ここに若造がいることとか、ここに銀時がいることとか、そして俺が女装していることとか!
全部が最悪の状態をさしている。
しかも深夜帯は若造と厄介な男とが共に行動していることが多い。何度か遭遇しそうになった。
早く! 早くこの場を去らなければ。
銀時が相手をしてくれている今ならば、銀時を人身御供に俺がこのまま遁走しても俺の後を追って来ないのではないだろうか。ちょめちょめは諦める。また次でいい!
だから早く…………
「ヅラ子さん!」
後ろから声がした。
…………っあああああああああ!
⇒
090413
土ヅラ子は、大好物です。
|