「おい、ヅラ、何やってんだよ!!」

 往来で、ヅラを見つけた。
 まさか、とは思ったが………


 さすがに俺だって自分の目を疑った。



 俺は慌ててヅラに駆け寄った。
 俺は、なるたけ目立たないように、駆け寄って、ヅラの腕を掴んで目立たない裏道にヅラを押し込んだ。


 まさか、コイツがこんな昼間から往来を普通のなりをして気配を殺さずに歩いているはずがないから。




 いつもなら今日みたいに真選組の警備が厳重な時に出歩くはずがない。少し考えれば今日の警備体制がどうなのかはわかりそうなものだ。将軍が何やらおでかけらしいからな。




「ああ、銀時か……」
「ああ、じゃねえよ、馬鹿!」
「馬鹿じゃない、桂だ」

 ああああ、本当にもう、コイツは何なんだよ、一体!!! 俺は、泣きそうになる。何だよ、この馬鹿。何で俺こんな馬鹿心配してんの?

 なんでヅラはそんな涼しい顔して、俺が冷や汗かいてなきゃならねえんだよ!


 ヅラは気配を殺す術に長けているが、さすがにこんなに白昼堂々歩くときは変装をしていたりするのに……僧侶だったり、女だったり……女の格好のときはさすがに自尊心があるのかよっぽどばれたくない時に限られているが……ガキのころ、それを理由にさんざん馬鹿にされていたからな……未だに女に見えるって、どうなんだ?
 それでも、まあ女の格好をすると、逆に目立つが……。まさか攘夷党御党首である狂乱の貴公子様が女装壁があるなどと誰も思わないから……ってゆうか、本当に普通に背の高い迫力美人に見えるからタチが悪いというか……。


 コイツ、顔だけはいいんだよな……馬鹿だけど。いや、頭は悪くないのだろうけど、何かネジが足りないって言うか、外れているって言うか、間違った所にネジがはまってるって言うか……。ぶっちゃけずれてる。


 それにしても、普通の格好をして歩く時でも、気配を殺しながら歩くのはいつものことで……。さすがにそのくらいの事は出来るのだが。


 はっきり言って、ヅラは目立つ……まあ、このうざったい長髪も目立つ原因の一つなのだが……切ればいいだろうに、かたくなに切ろうとしない。
 目立つというか……本当、顔はいいんだよな……。

 その辺のゲーノー人とかよりも、よっぽど整った顔立ちをしてやがる。作り物めいているが。
 まあ、普通に歩いていたら、目が離せなくなるような部類であることは確かだ。
 それが普通に歩いている時は、気配を殺している時。アヒルペンギンが横にいる時はまあ、よほど警備が手薄な時だが……。

 往来の中で人ごみに溶け込む術を身に付けて、周囲に溶け込んでそうやって歩いている。新八レベルまで目立たなくさせることが出来る。まあ、指名手配犯として、そのくらいは身に付けておいて欲しいところだが……大丈夫だと思っていたのに……いつも気配を殺して歩いているのははわざとやってるんじゃねえのか?
気配を殺しているんじゃなくて、やばそうな気配を無意識に察して、無意識に気配を殺してるだけ?
 もしかして、やばい時には気配を消すっていう天性の素質? そいでもってやっぱ何にも考えてないただの馬鹿?



 お前は顔と髪と無駄な知識と情報収集能力ぐらいだろう、誇れるものは!

 なのに、今日という日に限って!!!



「今日が何の日かわかってんのかよ!?」

 


 さすがに攘夷党……攘夷志士の集団の規模としてはこの江戸では一番らしい。それを束ねるはずの党首様が知らないなどという話はさすがに問題がある。あんなにテレビで報道されていたぞ! 確かにヅラはテレビとかあまり見ないようだけど。それにしても、情報収集の能力がなくなったら、党は壊滅だ。

 確かに、あんまり物騒な連中は野放しにしないで欲しいけど、おまわりさん。
 ヅラのやってる攘夷運動は、まだ穏健派だから放っておいても俺には迷惑かからないからどうでもいいけど! 

 それにしてもてめえが掴まったら寝覚め悪ぃじゃねえかよ!!


「見つかったりでもしたら、どうするんだ! こっちにやばいのいたぞ!」


 見知った顔のチンピラ上級おまわりさん達が、あの界隈をうろうろしていた。そんな所にのこのこ行くもんじゃねえ!
 将軍様がどちらにくかすら、俺でさえ知ってたんだぞ! テレビで結野アナが言ってたんだからな!


 てめえ、そっちはわざわざ掴まりに行くようなもんだ!














「将軍様のお散歩だろう?」


「………」



 しれっとして……。




 ああ、はい、ご存知でしたのね?






「じゃねえっ!! 何なの? お前こんな日に顔も隠さずふらふら出歩いて。せめて女装でもしたら?」


 せめて気配を殺して歩け! 
 お前の顔は夜のネオンサインよりもタチが悪く目立つんだからな。自覚症状もねえとは……。



「それじゃ、意味がないんだ」

「はあ?」
「こっちも、重要な仕事があってな。俺が派手に動けば、真選組の視線が俺に向くだろう?」




 俺は、溜息をついた……。



「そんな重要な仕事で、お前が捕まったら意味ねえんじゃねえ?」
「いや、さすがに将軍の警備を外れるはずがないから、厄介な奴らは追ってこないはずだ。俺は派手に逃げ回るのが仕事だ」


「………」



 ああ、もう、何なんでしょうね……。


 馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど………。

 まあ、コイツだってそれなりのビップなんだし? それなりにやらなきゃいけないこともあるだろうし、コイツほど顔が売れている指名手配犯も珍しいし? そうすれば、お前の成功させたいお仕事とやらは上手くいくのだろうけど?



















「あんま、俺の心臓に負担かけんじゃねえよ、馬鹿」



 俺は、ヅラの髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き回した。


 ヅラは、少しだけ、含み笑いをした。
















070722
・ネタが出来て30分で書き上げた。
・ってゆうか、私の書く銀さんが、ちゃんと桂を大事にしてくれる話が書けるとは思わなかった。 
・逃げの小太郎、って変装の名人。だけど、桂ってば美人だから目立つよなー。ああ、気配を殺すのが上手かったりするのかな? とか、妄想してたらできたネタ。桂は真選組が捕まえたがってる人だから、派手に陽動すればおまわりさん達わたわたして、仕事が上手くいく。桂は逃げるのが上手。てか、やっぱり普通に往来歩いてるって、よっぽど目立たない? いや、桂は美人で目立つって! だから、気配を殺すっていうことが出来る人なの! って自分の中で言い訳して出来た話。

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